少し前に、”リセットをする人”が増えているということを聞いた。
どこで聞いたのかは、よく憶えていない。
リセットは、機械に使う言葉だったはずだけれど、この場合、人生のリセットという意味であり、今の生活から抜け出して、一から始めるからリセットと呼ぶらしい。
まず、仕事を変えて引っ越しをし、その後、携帯電話の番号を変え、SNSを消してしまう。
これでリセットが完了というわけだ。
なぜ、そこまでする必要があるのかというと、今は、周囲の友人たちとの関係を断ち切って、別の環境で暮らしたいと思っても、SNSで繋がってしまい、簡単には行かないというのだ。
なるほど、と思う。
別に何かで失敗したわけでもないかもしれないし、自分自身のせいで、何かの噂の渦中になってしまったわけでもないかもしれないけれど、いたたまれないくらい苦しい思いをするのなら、それもありではないかと思う。
いえ、たとえ失敗が理由だったとしても、別の人生、別の顔で生きていくのも良いのかもしれない。
例えば、人に言いたくない傷を負ってしまったとしよう。
それを隠すためには嘘をつかなければならない。
一つ嘘をつくと、その嘘を誤魔化すために別の嘘をつかなければならなくなるから、嘘は雪だるま式に増えていく。
真面目な人ほど、嘘を上手につくのは難しいと思う。
そもそも、気が弱くなければ、堂々と開き直って傷を背負いながら生きていけたかもしれない。
生きていくというのは大変なことで、本人は、一生懸命だった。
ある日、生活の範囲の中にいる誰かが嘘に気がつく。
言わなくても良いのに、誰かにバラしてしまう。
でも、嘘をついた理由は言いたくない。
なぜなら、その元になった傷は深く、まだ癒えていなかったから。
私は、彼(彼女)が、リセットをしたいと思っても、良いのではないかと思う。
そこで踏ん張って戦う労力を使って幸せになれるのなら良いけれど、その可能性が薄い場合は、やり直せば良いだろう。
努力や忍耐、根性がなんの役に立たないこともある。
そういうことを強いるのは、想像力のない輩ではないかと思っている。
リセットができれば、きっと、前よりも人を見る目はできていると思うから、自分を傷つけない人と出会いやすくなるはず。
ネット上で、匿名性を利用して、ひどいことをする人もいる世の中だから、それを救う手段がないとしたら、逃げるが勝ちということもあるのではないかな?
生きることに疲れて、死にたいほど苦しい人はたくさんある。
それを思えば、リセットは、とても良い解決方法かもしれないと思う。
ふと、眉村卓や星新一の世界を思い出した。
彼らさえ想像もしなかったことが、現実には、たくさん起こるのだな、と思った。